私の場合、珈琲を楽しめる空間とは特別なものであると常々考えています。
美味しくローストされた漆黒飴色の豆を飲む分量だけミルで挽き、適温に調整された美味なるお湯で、ハンドドリップによって丁寧に淹れられたこの嗜好品を、どのような空間で楽しむのか、我が人生においてはもっとも重大な問題です。
そこは、できれば空気が清浄で、できれば雰囲気は静謐で、出来る限りしつらえは心のこもった温かみのある自然な素材で構成されたものであって欲しい。
例えば、手に触れるカウンター、ソファーの肘掛け、カップ、スプーンにいたるまで、それらの手触りは、質感の心地よい穏やかなものであって欲しい。
椅子は長時間座っても、座っていることを忘れるほどのものであって欲しい。
目に触れる光は柔らかく、存在感を感じられない照明ならいい。
後ろに流れる音楽は、出過ぎていない、洗練されたものならいい。
働く人々は、静かなる職人であって欲しいし、サービスの人であって欲しい。
そんな空間で、一日のうちわずかな時間、その刹那を楽しむことができれば、その後に続いていく時間を豊かに創り出していけると、そう信じています。
休日にて。
店主